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福岡高等裁判所 昭和29年(ネ)568号 判決 1954年11月25日

控訴人

(原告) 山本早雄

被控訴人

(被告) 佐賀県知事

主文

本件控訴は之を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す、被控訴人が発した昭和二十八年十月十九日附第一期分同年十二月十四日附第二期分の各昭和二十八年度県税事業税督促状及び被控訴人が訴外山本ナヲに対する昭和二十八年度事業税滞納処分として控訴人所有の現金千九百六拾円を差押えた処分並びに被控訴人が為した控訴人の右滞納処分異議申立に対する決定はいずれも之を取消す、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。当事者双方の事実上の陳述は原判決の事実及理由の部中、第一、第二、第三に記載せられたところと同一であるから、ここに之を引用する。

理由

控訴人は其の母訴外山本ナヲと共に菓子小売業を営み同訴外人と連帯して事業税の納付義務を負うものであること、同訴外人は昭和二十八年十月八日、昭和二十八年度事業税賦課(第一期分九百円年額千八百円)に付き被控訴人佐賀県知事に対し異議の申立を為したところ被控訴人は異議の申立を却下し同年十二月三十日附異議申立に対する決定通知書を同訴外人宛発送し該通知書は昭和二十九年二月二十三日同訴外人に到達したこと、よつて控訴人は昭和二十九年三月十二日事業税異議申立に対する却下決定取消の訴を佐賀地方裁判所に提起したこと、之より先に被控訴人は未だ前記異議申立に対する決定をしない以前の、昭和二十八年十月十九日附及同年十二月十四日附でそれぞれ第一期分及第二期分の各事業税督促状を同訴外人に発送し何れもその頃同訴外人に到達したこと、其後被控訴人は同訴外人に対する昭和二十八年度事業税の滞納処分として昭和二十九年三月五日控訴人所有の現金千九百六十円を差押えたこと、よつて控訴人は同月六日右滞納処分につき被控訴人に対し異議の申立を為したが、被控訴人は同年五月二十八日右異議を理由なしとする却下決定を為し控訴人は同月三十一日右決定通知書を受領したことは当事者間に争がない。

控訴人は事業税賦課に対する異議の申立ありたるときは之に付き決定ある迄は滞納処分を為すことを得ず、又右決定に対する取消訴訟の提起ありたるときは其の判決確定迄之を為すことを得ないと主張するけれども、地方税法第七百六十四条第十項に「異議の決定に不服がある者は裁判所に出訴することが出来る」と規定し同条第十一項には「同条第一項及第二項の規定に依る異議の申立又は前項の規定による出訴があつてもその事業税に係る地方団体の徴収金の徴収は停止しない。但し道府県知事は職権に基いて又は関係人の請求によつて必要があると認める場合に於ては之を停止する事ができる」と規定しているから、納税義務者が事業税賦課に対し同条による異議の申立を為し又は異議に対する決定を不服として裁判所に出訴した場合に於てもその事業税に係る地方団体の徴収金の徴収は停止する要なきこと明らかである。

而して同条にいう「徴収金の徴収」とは強制徴収(督促状による督促、更に滞納処分)をも含む趣旨であることは疑問の余地がない。従つて被控訴人が事業税賦課につき前記訴外人の為したる昭和二十八年十月八日付異議の申立に対し決定を為さない前に同年十月十九日付及同年十二月十四日付で同訴外人に対し督促状を発し更に昭和二十九年三月五日(之は異議却下決定に対する取消訴訟前である)滞納処分として前記差押を為した行為は何等右法条に違反しない。よつて控訴人が以上と異る独自の見解を根拠として被控訴人が同訴外人に対し右の通り督促状を発し差押を為したることを違法として其の取消を求め且同一の理由に基いて右滞納処分に対する控訴人の異議申立を却下したる決定の取消を求めるのは何れも失当であるから原判決が之を棄却したのは相当であつて、本件控訴は理由がない。

よつて民事訴訟法第三百八十四条第八十九条に従い主文の通り判決する。

(裁判官 野田三夫 中村平四郎 天野清治)

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